2019年03月11日

松澤俊二著 『プロレタリア短歌』


コレクション日本歌人選79。

1920年代後半から30年代にかけて興隆したプロレタリア短歌50首を取り上げて、一首につき2ページで解説・鑑賞した本。見出しの歌以外にも関連する歌が多く挙げられ、プロレタリア短歌の概要を摑むことができる。

 遅れ霜に葉はみな枯れた桑畑に春蚕(はるご)をみんな父とう
 づめた                      中村孝助
 猿の手だか人の手だかわからない手が一斉に粥を啜つてゐる
 冬の夜だ。                   井上義雄
 お袋よ、そんな淋しい顔をしないでどうしてこんなに苦しいのか
 それを考へて下さい              小澤介士

50首の歌はどれも初めて読むものばかり。短歌史におけるプロレタリア短歌の位置付けは知っていても、作品自体についてはほとんど何も知らなかったことに気づかされた。

作者の略歴を見ると、実に18名が「詳細不明」となっている。プロレタリア短歌の活動期が短かったことや、弾圧に備えておそらく筆名を使っていたことなどが背景にあるのだろう。そこに、プロレタリア短歌のたどった苦難の歴史が垣間見える。

 オリムピック!オリムピックと書きたて生活の問題忘れさせよう
 とする                     山埜草平
 むつと涌(わ)く怒りをこらへてゐる事務室。秋空に奉祝の花火
 があがる。                   会田 毅

前者は1936年のベルリンオリンピックの歌で、後者は1928年の昭和天皇の即位の大礼の歌。どちらも、今の歌と言っても通用しそうな内容だ。

プロレタリア短歌は、読者を「過去」にアクセスさせる媒介になりうるのだ。そこから私たちは、未来を拓くための知識や社会の見方を新たに獲得し、何らかの教訓を得ることもあるに違いない。

解説の最後に記された言葉が、ずしんと胸に残る。

2019年1月25日、笠間書院、1300円。

posted by 松村正直 at 21:56| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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