2017年09月14日

勺禰子歌集 『月に射されたままのからだで』



「短歌人」所属の作者の第1歌集。420首。

嘆き死んだ遊女の墓のあるあたりから湧き出づる温泉ぬるし
落ちたての花びらを轢く感触のなまなまと車輪伝ひ登り来
はふり・ふはり・はふり・ふはり と転がせば屠(はふ)るとふ言の葉のやさしさ
両岸に茶屋ありしといふ二軒茶屋跡から暗峠(くらがりたうげ)を目指す
きちんと育てられたんやねと君は言ふ私の闇に触れてゐるのに
はじめてのそして最後の夕日浴び解体家屋はからだを開く
はげしさを身に溜めぬやう送り出すしぐさか 熱を帯びゆく扇
迷ひとは無縁の速度を保ちつつ燕抜けゆくちさき山門
片足の鳥居の脇のアパートの下着揺らめく205号
入浴剤の香りで少しつながれてあはきあはき家族といふもの

1首目、遊女の死にきれない思いが温泉になって溢れている感じ。「ぬるし」が何とも寂しい。
2首目、まだ柔らかい花びらを轢く感触が自転車を通じて身体に伝わるのだ。
3首目、単なる言葉遊びではなく「屠る」という語に対する肯定的な思いが表れている歌。
4首目、今は何もない「二軒茶屋跡」に立って昔の様子を思い描いている。
5首目、私の闇を受け入れてくれる相手なのだろう。
6首目、「からだを開く」がいい。壁が壊されて剥き出しになった家の中が夕日に照らされている。
7首目、盆踊りの様子。「はげしさを身に溜めぬやう」という捉え方に独自なものがある。
8首目、確かに燕の飛び方には迷いがない。
9首目、長崎の山王神社の被爆した鳥居。三句以下の生活感との取り合わせがいい。
10首目、ほのかに同じ匂いがする。そのくらいのつながりなのである。

歌集全体を通じて大阪や奈良の地名や固有名詞が数多く登場する。土地や歴史とのつながりを深く感じている作者なのだろう。近年は社会詠にも意欲的に取り組んでいる。

「ひつじ」7首は、12年前の出来事を絵画作品と重ね合わせて詠んだ一連で、とても強く印象に残った。作者の人生において忘れることのできない体験である。

2017年7月24日、六花書林、1900円。

posted by 松村正直 at 09:19| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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