2017年09月04日

谷とも子歌集 『やはらかい水』


2008年から2017年までの作品268首を収めた第1歌集。

傘ささず歩くからだは響きあふ青葉を揺らしやまない雨と
カップ麵のふたに小石をのせて待つ今日のもつとも高いところで
ひつたりと二枚のサルノコシカケが待ちをり母と子の座るのを
水面に見え隠れする足首のロッカーキーの輪つかの性別
壮年の弟の首うなだれて「ごめん」と言ふうちおとうとになる
なんだらうこのしづけさはと思ふときほたるぶくろの花のうちがは
〈出合〉からすべて始まる沢水の力踏みつつ遡りゆく
どのやうに終(しま)へばいいのポケットの無い喪服では指があらはで
ポインセチア値下げされたり地下街の店をあかるく照らしたのちに
ふくろ買ひふくろ断り自転車の籠にふくろのあらは放り込む

1首目、山歩きをする作者。身体に雨が当たるのが心地良い。
2首目、「小石をのせて」に山で食べている臨場感がよく出ている。
3首目、大きいのと小さいのが段違いに並んでいるのだろう。
4首目、プールでの歌。男性用は水色で女性用はピンクとか。
5首目、普段は大人の男の顔を見せているが、何かの拍子に子どもの頃の弟の表情になったのだ。
6首目、いつの間にか、ほたるぶくろの花の中にいる感じ。
7首目、流れの合流地点から沢を遡行していく。「力踏みつつ」がいい。
8首目、剥き出しの指に感情が溢れてしまいそうになるのだろう。
9首目、おそらくクリスマスが過ぎたのだ。華やぎの後の寂しさ。
10首目、コンビニやスーパーでごみ袋を買った場面。「ふくろ」の繰り返しがおもしろい。

添付の杉の木の栞やソフトカバーの装幀なども含めて、作者の人柄や世界観がよく表れた一冊だと思う。「ささげている」「会う」「鳴き交う」と、旧かなのミスがあるの惜しい。

2017年8月26日、現代短歌社、2500円。

posted by 松村正直 at 08:13| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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