2017年08月24日

「塔」2017年8月号(その2)


さかのぼること許されて琺瑯のボウルに乾燥椎茸もどる
                         福西直美

時間を巻き戻すように膨らんでゆく椎茸。初・二句の把握が印象的で、反対に、現実にはさかのぼることが不可能な時間というものを思わせる。

映画って便利だ海にいないとき並んで海を見た気になれる
                         小松 岬

確かに映画館のスクリーンは横に広くて、画面が海のようでもある。好きな人と一緒に映画を見ていると、海に行ったような気分になれるのだ。

にわとりがにわとりの姿のままで眠っている零度のショーケース
                         鈴木晴香

パリに住んでいる作者。肉屋でにわとりが、生きていた時の姿を思わせる形で売られているのだろう。「零度」がいい。日本ではあまり見られない光景。

四人子の通り道としこれまでのわれありと思う子を産み終えて
                         矢澤麻子

自分の身体や存在を「四人子の通り道」と言い切ったところに強さがあり印象に残る。別の世界とこの世をつなぐ通り道となっているのだろう。

めしいなる犬は鼻から電柱にぶつかりて後ゆまりをかけたり
                         永久保英敏

年老いた犬の姿がありありと見えてくる一首。「ぶつかりて」が何とも哀しい。それでもやはり昔からの習性で、おしっこは電柱にかけるのだ。

あの一番低いマンションがうちです、と告げて別るる雨の街角
                         逢坂みずき

誰かに家の近くまで送ってもらったのだろう。家までは来ないで、マンションが見えるあたりで別れるというところに、相手との距離感が出ている。

いく筋か黒く流るる水ありてわさび田と知りぬ春の雪ふかし
                         坂東茂子

雪の積もる中に筋をなして流れている水。「黒く」と言ったのが良くて、反対に雪の白さも浮かび上がる。結句の字余りも雪の深さを感じさせて効果的。

posted by 松村正直 at 08:51| Comment(0) | 短歌誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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