2017年07月15日

『山西省』の検閲のこと


「歌壇」2017年8月号掲載の島田修三「PPBの検閲」に、次のような文章がある。

途中、事前から事後検閲に変わったが、PPBの検閲制度は昭和二四年一〇月まで続く。とはいえ、例えば、この期間に刊行され、中国兵との凄惨な戦闘シーンもある宮柊二の『山西省』の歌が削除されたという話は聞かない。

占領軍による検閲についての話であるが、実は『山西省』は検閲によって原稿を没収された経緯がある。

これは既に多くの人が指摘している事実であって、例えば、今年刊行された佐藤通雅著『宮柊二『山西省』論』には、次のように書かれている。

この検閲政策は、一九四五年九月から四九年九月までつづけられ、膨大な既刊本が焚書の憂き目に会った。また、事前検閲によって改変を余儀なくされる例が続出する。改変どころか、出版自体が不許可となり、没収される場合もあった。『山西省』もそういうなかの一つだ。

この時に没収された原稿は、幸いなことにプランゲ文庫に残っており、現在では中山礼治『山西省の世界』(1998年)で読むことができる。
http://www.hiiragi-shobo.co.jp/?p=109

また、プランゲ文庫の「検閲処分を受けた一般図書、ゲラ、手書き原稿」はネットでも公開されている。
https://www.lib.umd.edu/binaries/content/assets/public/prange/censored-books-and-pamphlets_07282016.pdf

この一覧表で宮柊二『山西省』を探すと、1946年3月7日に「Manuscript」(原稿)が「Suppressed」(出版禁止)、「Withdrawn」(取り下げ)という処分を課されたことがわかる。

占領軍による検閲の実態については現在も不透明な部分が多いが、その中にあって『山西省』は最も研究が進んでいる一冊と言っていい。それを「『山西省』の歌が削除されたという話は聞かない」と書くのは、ちょっと不用意ではないだろうか。

*中西さんのコメントを受けて「これは明らかな間違いだ」という部分を削除しました。(2017.7.17)

posted by 松村正直 at 21:09| Comment(2) | 短歌誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
『山西省』のことは、調べたらすぐに気付きそうなところですよね。まあそこだけすっぽり知識が欠落していたとか、調査から漏れていたとかは実際あり得ます。今回はたまたまそうだったということでしょう。「削除されていない。」と書けば明確な誤りですが、「削除されたという話は聞かない。」だと、本人が聞いていなかっただけ、となるわけで、そこは学者らしい用心深さです。

『歌壇』八月号の目次をウェブ上で確認しましたが、おもしろそうなので買おうと思います。『歌壇』は例年八月号の特集が充実していることが多い気がします。
Posted by 中西亮太 at 2017年07月16日 00:34
コメントありがとうございます。確かに「削除されていない」と「削除されたという話は聞かない」では違いますね。

中西さんのコメントを受けて「これは明らかな間違いだ」という部分は、注意書きを付けたうえで削除しました。

「歌壇」は特集だけでなく、連載などの読み物も充実している感じがします。全部に目を通せているわけではありませんが。
Posted by 松村正直 at 2017年07月16日 07:19
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