2016年11月17日

「塔」2016年11月号(その1)

沈む陽は窓より深く射し入りて冷蔵庫の把手しばし耀ふ
                   田附昭二

夕方の陽ざしが家の奥まで射し込んで来て、金属の把手部分を美しく光らせている。その輝きはやがて消えてしまうものだ。

少女とわれの夏の時間はみじかくて西瓜の種をならんで飛ばす
                    石井夢津子

「少女」はお孫さんだろうか。ありふれた何気ない場面。でも、それが掛け替えのない時間であることを作者は知っている。

客二人乗務員一人ゴンドラは霧に見えざるロープを下る
                    久岡貴子

「客二人」は作者と連れの人なのだろう。唯一の頼りであるロープが見えないことの不安と楽しさ、そして浮遊感。

倒木の覆ふ流れを汲みて飲む木の香を帯ぶる冷たき水を
                    富樫榮太郎

「木の香を帯ぶる」がいい。山の中のきれいな流れなのだろう。歩き疲れた身体に鮮烈にしみてくる。

肢そろへ横腹見せて寝ねてをり殺されやすき姿で犬は
                    野 岬

よく見かける光景であるが、下句にハッとさせられる。確かに、横腹を見せるというのは、野生の動物とは違う無防備な姿なのだ。


posted by 松村正直 at 09:47| Comment(0) | 短歌誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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