2016年11月03日

坂口裕彦著 『ルポ難民追跡』


副題は「バルカンルートを行く」。

シリアの内戦やアフガニスタン、イラクなどの治安の悪さから国を逃れ、ドイツなどヨーロッパの国々を目指す人々。その実態を描き出すために、あるアフガン一家に密着取材したルポルタージュである。

難民や移民という「記号」ではなく、「生身の人間」の予想がつかない行動や垣間見せる表情こそが、事態の核心を映し出すはずだ。

という考えのもと、著者はギリシアで出会ったアフガニスタン人の家族(夫婦と4歳の娘)に同行取材する。ギリシア、マケドニア、セルビア、クロアチア、スロベニア、オーストリアを経てドイツへ。

その取材の中で見えてくるのは、これまでの「難民」のイメージとは少し違う風景である。

「新難民」「新移民」とでも、こちらが呼びたくなるほど、スマートフォンを巧みに操り、画一的な行動パターンを見せる人々は、まさにインターネットの申し子だ。

多くの難民がたどったバルカンルートはどのようにして生まれ、その後どのような変遷をたどったのか。難民排斥を訴えるハンガリーや、ユダヤ人の大量虐殺への反省から憲法で難民の庇護権を認めているドイツの歴史も取り上げながら、著者は考察を深めていく。

「生身の人間」の姿に迫ろうとした本書の一番の驚きは、あとがきの最後に書かれていることかもしれない。著者もまた当然のことながら一人の「生身の人間」であったのである。

2016年10月20日、岩波新書、840円。

posted by 松村正直 at 12:46| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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