新鋭短歌シリーズ28。
262首を収めた第1歌集。
おたがいの体に等高線を引くやがて零メートルのくちづけ
唇をつけないように流し込むペットボトルの水薄暗い
鉄柵の内に並んだ七人の小人がひとり足りない芝生
教える手おしえられる手が重なってここに確かに心臓がある
ルート2の抜け道を行く夕暮れにどこからか恋猫の鳴き声
残像の美しい夜目を閉じた後の花火の方が大きい
氷より冷たい水で洗う顔うまれる前は死んでいたのか
黙ることが答えることになる夜のコインパーキングの地平線
水道の水を花瓶に注ぎ込む何となく秒針を眺めて
交番の前では守る信号の赤が照らしている頰と頰
1首目、等高線という言葉が人体の凹凸をなまなましく想像させる。
3首目、「七人の」と言っているのに、六人しかいないのがおもしろい。「七人の」は数のことではなく、固有名詞(白雪姫のキャラクター)の一部なのだ。
4首目、「ほら、私こんなにドキドキしてる」などと言って、相手の手を取り自分の胸に当てている場面。
5首目、「ルート2の抜け道」がいい。縦、横の道に対して、斜めに抜ける道。
8首目、恋の場面。相手の問いに対してOKと言えずに黙り込む。
10首目、夜の横断歩道の前に立つ二人。これからどこへ向かうのだろうか。
文体的には動詞のテイル形が多いところに特徴がある。例えば119頁を見ると「抱いている」「抱きしめられている」「さらされている」と3首ともテイル形が使われている。
小題は歌の言葉から採られているものだけでなく、「白熱灯はその下だけを照らしていた」「問いには答えが似合うだけ」「ここにとどまるために私は駅に向かう」など、それ自体が作品になっているものが多い。
2016年9月17日、書肆侃侃房、1700円。