2016年09月23日

「塔」2016年9月号のつづき

『日本の橋』読みしのちもとめたる全集いくらも手にとらざりき
                    竹下文子

保田與重郎の『日本の橋』に感動して全集を買ってみたものの、あまり読まなかったのだろう。「いくらも」に寂しさがにじむ。

肩甲骨すでに大人になっている息子の背中と背くらべする
                    石井久美子

中学生くらいの子だろうか。体つきや骨格はもう大人の男だ。「肩甲骨」に着目したところが良い。「背中」もくどいようで効いている。

ドアホンのピンとポンとのそのあひの時間の永き夏の午後なり
                    清水良郎

ピンポン、ピンポンと慌ただしく鳴るのではなく、指でゆっくり押してから離した感じ。時が止まってしまったかのような時間帯の様子である。

きみの手を握って眠ったはずなのにコピー用紙を抱えて歩く
                    阿波野巧也

上句から下句への時間的な意識の飛躍がおもしろい。下句は目覚めた時の話が来ると思って読んでいくと、突然、昼間の場面に飛ぶ。

遮断機の下をながれて水草は遠き河口へ導かれゆく
                    吉田 典

遮断機が上がるのを待つ間、踏切の下の水路を見るともなく見ている。流れる水草につられるようにして、見えない河口へと想像が広がっていく。

posted by 松村正直 at 09:04| Comment(0) | 短歌誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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