2016年07月28日

「塔」2016年7月号

友のもつ悩みを電話に聞きてをり金さへあれば解決するとふ
                   岩野伸子

悩みの電話を聞くのもなかなかしんどいものだ。「金さへあれば解決する」という言葉は、借金の申し込みを匂わせているのかもしれない。

春昼にパスタを巻けば菜の花はフォークの元に集まりてゆく
                   北辻千展

下句がうまい。春らしい菜の花のパスタを食べながら、作者の心はどこか浮かない様子である。ぼんやりとフォークの先を見つめている。

十五年の弟の生の証(あかし)とし一中慰霊碑にその名を残す
                   小菅悠紀子

十五歳だった弟は原爆で亡くなった。広島第一中学校の慰霊碑。遺骨も見つからなかった弟が、この世に生きた唯一の証なのだ。

妹はふたりいるけどふたりともわたしのきらいな椎茸が好き
                   空色ぴりか

一瞬、ふたりの妹のことが嫌いなのかと思って読んでいくが、そうではない。私が嫌いなのは椎茸。でも、妹との微妙な関係が感じられる気もする。

諦めることになれたるわたくしが十薬を十薬の根と引き合ふ
                   久岡貴子

「十薬」はドクダミ。庭にはびこるドクダミを抜こうとするが、なかなか抜けないのだ。下句の言い回しに味がある。まるで綱引きをしているみたい。

象のいるプールにぷかりぷかり浮く桃のやうなる糞の四・五個が
                   ぱいんぐりん

「桃のやうな」が絶妙。形と言い、大きさと言い、確かにその通り。美味しそうな桃とゾウの糞とのイメージの落差がおもしろい。

posted by 松村正直 at 07:43| Comment(2) | 短歌誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
やっぱ,妹のことがいまだに苦手というか,そういうのがばれますね,うーむ。
Posted by ぴりか at 2016年08月02日 11:26
ばれるところが良いのでしょう。

言葉でそうは書いてないけれど、そう感じ取れるところに味わいがあります。
Posted by 松村正直 at 2016年08月02日 15:57
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