2016年06月28日

「塔」2016年6月号の続き

母校という言葉が嫌いだと言えば子を産んでいないからだと言わる
                    白水麻衣

けっこう近しい関係の人に言われたのだと思う。だからこそ一層ショックであり、腹も立ったに違いない。「母音」「母国」「母艦」など、考えてみると「母」の付く熟語は多い。

「電話にて弱気を叱る」病状を解らず書きしわれの字を見る
                    安永 明

親か友人か、電話の声に元気がないので励ますつもりで叱ったことがあったのだ。今、日記などを見てその時のことを思い出しながら、既に病気の重かった相手に対してどうしてもっと優しい言葉を掛けられなかったのかと後悔しているのである。

ルビ多き『阿部一族』はエアコンの風量〈しずか〉に切り替えて読む
                    中澤百合子

森鴎外の歴史もの。文字がごちゃごちゃしているので、集中して読みたいのだろう。エアコンの音や風で気が散ることのないようにして。

夫をらぬ夜に柿ピーの柿ばかり残りゆくなり黄金(こがね)の色の
                    広瀬明子

普段は夫が柿の種、作者がピーナツという感じでうまくバランスを取っているのだろう。残った柿の種が夫の不在をありありと示している。

本といふ字が真ん中できつぱりと割れて書店の自動ドア開く
                    清水良郎

上句だけでは何のことかわからないが、下句で自動ドアに書かれた文字の話だとわかる。「本」という字が左右対称なのも良くて映像的な一首だ。

イソップの北風でなく太陽になればと娘(こ)にいふ なれない我が
                    一宮雅子

娘の話を聞いて、相手に優しく接してはどうかとアドバイスする作者。でも、作者自身はそれができない性格なのを知っている。あるいは娘も作者に似た性格なのかもしれない。

息継ぎが上手くできないわたくしは春の光の中で溺れる
                    中山悦子

満ち溢れるような春の光の感じがよく出ている。光を液体であるかのように捉えて、水泳の息継ぎを持ってきたのが面白い。春の明るさにくらくらするような気分だろう。

posted by 松村正直 at 08:52| Comment(0) | 短歌誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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