2016年06月26日

「塔」2016年6月号

たまには自分の所属する結社誌から印象に残った歌の紹介を。

きれいごと言ふ人苦手さはあれど我の折々言ふきれいごと
                    岩野伸子

初二句だけなら他人に対する批判で終わりなのだが、この歌の良いのは下句で批判が自分にも返ってくるところ。誰しも「きれいごと」を言う時があるものだ。

マスクしてマスクの医者に診てもらふどちらも言語不明瞭なり
                    上田善朗

ユーモアのある歌。マスクをかけた者同士が向き合ってモゴモゴ言っている姿である。風邪やインフルエンザが流行っている季節なのだろう。

毀しゆく明治の煉瓦そのなかの「五百枚目」の墨書きに遭ふ
                    尾形 貢

国鉄で土木関係の仕事をしてきた作者。明治時代に造られた構造物を壊す作業中に、煉瓦に書かれた文字を見つけたのだ。時間を超えて昔の技術者の思いが伝わってくる。

人形に餡は充ちたり断面があらわれるとき見つめてしまう
                    相原かろ

人形焼を一口かじったところだろう。中に詰まっている餡をじっと見つめる作者。よく考えると人形の姿の中に餡が入っているのは奇妙なことに違いない。

風貌を問われナミヘイさんと言い いや良い人と付け加えたり
                    澁谷義人

サザエさんに出てくる波平さんみたいに頭が禿げているのだろう。そう言った後で慌ててフォローしている感じがよく出ていて面白い。

金色のオイルの瓶に子鰯の死につつ並び光をかへす
                    村田弘子

オイルサーディンを手作りしているところだろうか。オリーブオイルの中に小さな鰯がたくさん漬かっている。美しくも残酷な姿。

花の名をわれよりも知る父となり男岳に立ちて女岳をほめる
                    山下裕美

退職してハイキングや山登りをするようになった父。以前は知らなかった花の名前を今では作者よりもよく知っていて教えてくれるのだ。下句、山頂から見える隣りの山の姿がきれいだったのだろう。

posted by 松村正直 at 19:41| Comment(0) | 短歌誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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