2015年11月16日

畠山重篤著 『日本〈汽水〉紀行』


2003年に文藝春秋社より刊行された単行本の文庫。
初出は「諸君!」2001年7月号〜2003年6月号。

全国各地の「汽水」を旅したエッセイ。陸奥湾、有明海、屋久島、四万十川、富山湾、揚子江などが舞台となっている。

気仙沼で牡蠣の養殖を手掛ける著者は、「森は海の恋人」を合言葉に、各地で植樹や講演活動を行っている。「汽水」とは海の水に川の水が混ざっている水域のこと。

河川水が流れ込む海とそうでない海とでは植物プランクトンの発生量が約三十倍から百倍もちがう。これはそのまま魚介類の漁獲量のちがいだと思っていい。

著者はその例として、面積がほぼ等しい東京湾と鹿児島湾を比較する。多摩川、鶴見川、荒川、江戸川など16本の川が流れ込む東京湾に対して、鹿児島湾は火山の爆発でできた湾のため大きな川が流れ込まない。そのため、漁獲量は東京湾が鹿児島湾の約30倍にのぼるのだと言う。

国の中央に背骨のように位置している脊梁山脈の森から、日本海と太平洋の双方に約五万本の川が流れ落ち、沖積平野で稲穂が波打ち、汽水域で魚介類や海藻が育つ

森と川と海の深い関係がよくわかる文章だろう。海のことを考えるには、森や川のことも考える必要があるのだ。

本書には気仙沼の歌人、熊谷龍子の歌も随所に引用されている。

冬海の石蓴(あおさ)の森のそよぎ聴かむ 海苔の胞子の飛び交うなかの
寒鰤を育みしもの 杳(とお)い日の立山連峰に降りし雪のひとひら
胎内の記憶のごとき川の匂い忘れずに生く 鮭の一世は

2015年10月10日、文春文庫、700円。

posted by 松村正直 at 22:00| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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