2015年11月06日

三島麻亜子歌集 『水庭』

片耳の冷えに覚めたる早天をおくれて目覚まし時計が響(とよ)む
取り急ぎと書かれしままに夏過ぎて秋過ぎてなほ置かれたる文
あさゆふに月のひかりを吸ひこみて高層ビルの屋上(うへ)の隠し田
旋回をしつつ降り来るしらさぎはつね横顔をわれに見せをり
指先より冷え初むる朝ポケットに切符の稜(かど)の尖りたしかむ
花冷えの三日シャッター下りしまま扇(ファン)は逆さに回転しをり
ふるさとに二度の大火を見しといふ君よ歯並みがうつくしきひと
洗ひ場はいまだ名残の水ながれ踏み板なかば崩れつつあり
ゆふまぐれ水神祭の車座に「ほんのすこし」を三度いただく
朝明(あさけ)まで踊れば切れる鼻緒ゆゑ夜通し商ふ下駄屋のありぬ

370首を収めた第1歌集。

2首目、なかなか返事を書けずにそのままになっている手紙。
3首目、歴史的な言葉である「隠し田」と現代的な「高層ビル」の取り合わせが面白い。
5首目、切符の角に触れる指先の感覚が鮮やかに描かれている。
6首目、換気扇のファンに外気が吹き込んで逆回転している場面。
9首目、地元の祭なのだろう。「ほんのすこし」と言ってお酒を受けているのだ。
10首目、郡上踊りを詠んだ歌。夜通し踊ることは知っていたが、夜通し営業している下駄屋があるとは知らなかった。

2014年10月20日、六花書林、2400円。

posted by 松村正直 at 06:10| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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