2019年04月20日

『小見山輝歌集』


現代短歌文庫120。

第1歌集『春傷歌』(1979年)全篇と自撰歌集『空蟬』、「柿本人麻呂覚書」「抒情から現実へ―服部忠志小論」、対談「満蒙開拓青少年義勇軍の記憶」などを収めている。

男装となりてにほへる女医なりき「四平」にて別れその後を知らず
昼を眩しく花より出づる蜂ありてあゆめども何処へ行くあてもなし
巨石に心ひかれて寄りゆくは齢四十のわがひくき影
朝霧の動くともなき河原に現れては消ゆる黒き石ひとつ
野に転ぶ目鼻つたなき石仏をおほひて春のにがよもぎ萌ゆ
岩窪に竹の落葉をつもらせて水澄めり水に水馬(まひまひ)あそぶ
西日つよき畳の上の一本の抜毛を見れば動きつつあり
抱きあふ人もひとりの我もきくこの夜石垣に寄る波の音
冬の陽のやがて斜めに及ぶ頃蜜柑は熟れて木にゆるるかな
人気なき家群(やむら)をぬきて一本の道あれば通ふ郵便屋なども

すべて『春傷歌』から。

1首目、「四平」は満州の交通の要衝。敗戦後に見た光景。
3首目、巨石に惹かれるのも、もう若くない「四十」という年齢ゆえか。
4首目、霧の濃淡の表現が巧みで、黒い石の存在感が際立つ。
6首目、四句の句切れのリズムがいい。静から動への切り替わり。
7首目、まるで一本の毛が生きているかのような生々しさを感じる。
10首目、道があるということはその先に住んでいる人がいるのだ。

2013年10月13日、砂子屋書房、1500円。

posted by 松村正直 at 23:20| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする