2017年03月09日

石田比呂志歌集 『冬湖』

2011年に亡くなった作者の7回忌にあわせて刊行された遺歌集(第18歌集)。2010年から11年にかけての作品186首と未定稿歌抄39首、さらに自らの生い立ちを綴ったエッセイ「孑孑記(げつげつき)」を収める。

地下街の動く階段のぼり来て大欠伸の口地上にて閉づ
尾の切れし本体よりも切られたる尻尾(しっぽ)の方がよっぽと痛い
寝そべりていたりし犬が立ち上がり思い定めし如くに歩く
海峡の空低くゆく漂鳥を標的として襲う鳥あり
あけぼののきざせる部屋に石に降る雨を聞きおり眼鏡を置きて
背後(うしろ)から光が射せば前方に落つる外なき影に首あり
置き去りにされし鷗も居残れる鷗も白し夕日が中に
一方(ひとかた)に向きて湖面を漂える鴨あり首を風に吹かれて
飛ぶ鳥は必ず墜ちる浮く鳥は必ず沈む人間は死ぬ
石ころは石ころなりに所得て旅心(りょしん)動くということのなし

1首目、地下から地上に出る時のちょっとした緊張感。
2首目、組織と個人の関係としても読める歌だ。
4首目、渡り鳥の群れを襲う猛禽の姿が生き生きと目に浮かぶ。
5首目、「眼鏡を置きて」がいい。雨音だけが心に沁み込んでくる。
6首目、「首あり」と言うことで反対に斬首の場面がイメージされる。
9首目、何ともすごい歌だと思う。身も蓋もない。7首目から9首目は絶詠「冬湖」30首より。力のある歌が多い。

「孑孑記」も非常に味わいがある。未完に終ってしまったのが惜しい。

2017年2月18日、砂子屋書房、2500円。

posted by 松村正直 at 09:54| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする